『もう最後だ、あとひといきだ。』
網のように広がる星の野原を真下にキジャは
息をきらしながら、そうつぶやきました。
てっぺんの大杉は、山の神を懸命に崇拝するかのように
左右にごうごう揺れました。
東の方の海には
真夜中の夕焼けが落ち
西の丘の先には
黒い羊の群れが
いっそうに輪になっては
押し合いながら
北西の方角へ進むのが見えました。
風は強く
灰まじり。
季節を燃やす
爆撃の音。
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『戦争は終わったか。』
かすかなコーヒーの香り。
そのずっしりと太い声は
いつかの日曜の夕暮れを想わせ
コダマのようにぐるぐる回っては
窓の木枠に軽くぶつかり
透明な冬の空のずっと向こうに
消えて行きました。
にわかに起き上がろうとする
そのきゃしゃな身体。
重力は鉛のように感じられ
朝だか昼だかの光が
しぶく目に射し込みました。
やがてゆっくりと開けた
その瞳の先には
一面、ただただ白い光の粒子。
あの緑の海はすでに過ぎた夢の中。
いつしか追い風を追って行った
蒼い草原と流れる雲は
今は果てしなく遠く、
春のにおいは懐かしく古く、
辺りに広がる
ぴたっとした静けさは
どこか
永久の氷の時を感じさせたのです。
『あの羊は一体全体、宇宙のどの彼方へ行ってしまったかなぁ。』
ふらふら
そんなことに想いを馳せながら
キジャはそのまま
威勢よく刈られた後頭部を枕にして
どっと深いふかい眠りについたのでした。
風のない惑星の
ひときれの物語。
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